大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和47年(行コ)5号 判決

名古屋市中区錦三丁目一八番三一号

控訴人

尾立好子

右訴訟代理人弁護士

原城

同市同区三の丸三丁目三番

被控訴人

名古屋中税務署長

土方茂生

右指定代理人

山田巌

長谷正二

吉田和男

石田柾夫

長谷暲

右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を次のとおり変更する、被控訴人が控訴人に対し、昭和四一年六月一五日付でなした控訴人の昭和三九年所得税の更正処分中申告納税額につき金一七九万七、九〇〇円を超過する部分及び過少申告加算税の賦課決定中八万五、三〇〇円を超過する部分を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被訴訟人の負担とする。との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は次のとおり訂正、付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからそれをここに引用する。

(控訴人の主張)

一、本件建物には二個の出入口がある。北の出入口は控訴人の居住用専用で、そこにある別紙図面〈1〉の階段から二階に上り、上つたところで〈3〉の左側通路を廻つて更に〈2〉の階段を上つたところが三階である。控訴人は従前一階々段の床面積を四・三二平方米と主張していたが、三・七一平方米が正しいので訂正する。

二、南の出入口はバークレハ専用でそこを入つて一・九七米のところに二階へ上る〈4〉床面積四・三二平方米の階段があり、クレハは〈4〉の階段のみを利用している。

三、一階の事業専用面積を一二五・一五平方米と主張していたが一二五・七六平方米が正しいので訂正する。

四、本件建物は一、二階をバーとし三階は控訴人の居室とするため構造上別々の出入口、階段を造つたのである。バーの客と従業員は前示右側の出入口と〈4〉の階段を使用し、控訴人は左側の出入口〈1〉の階段〈3〉の通路〈2〉の階段を各別に使用することになつている。バーの客と従業員は北側の出入口と〈1〉の階段を使用するものではなく、控訴人がこれをクレハバーに賃貸している事実はない。

五、控訴人が原審で一個の出入口、二個の共用階段があると主張したのは誤りであるからこれを取消す。

以上の訂正に伴い控訴人は次のとおり主張する。

一、控訴人が(ホ)建物のうち居住用に供している部分の床面積の比率は二三・四九%、賃貸部分の床面積の比率は七六・五一%である。

二、してみると、控訴人は、その一部を居住用財産として所有していた(イ)宅地及び(ロ)建物を、(ハ)宅地と(ホ)建物に買換え、その一部を前記の通り居住用に使用しているのであるから、租税特別措置法三五条一項及び同法施行令二四条により、その課税譲渡所得は次のとおり金額四四五万四、九二〇円となる。

ア  譲渡収入金額 二、一〇四万六、六〇〇円

((イ)宅地売却代金四、七〇〇万円のうち、原判決八枚目裏(二)記載の居住用部分の割合に対応する金額)

イ  取得金額 一、〇四三万七、五七五円

((ハ)宅地と(ホ)建物の取得額合計四、四三四万四、一二一円のうち、前記(一)記載の居住用部分の割合に対応する金額)

ウ  譲渡資産の取得費 一二四万四、二五七円

((イ)宅地(ロ)建物の買入代金二七七万八、六〇二円に対する居住用部分の割合に対応する金額)

エ  (イ)宅地の譲渡に要した費用 一一三万四、七四九円

(譲渡に要した総費用二五三万四、〇五五円のうち居住用部分の割合に対応する金額)

オ  租税特別措置法三八条の二による特別控除 三五万円

カ  旧所得税法九条一項控除 一五万円

キ  課税譲渡所得金額 四四五万四、九二〇円

〈省略〉

三、又控訴人は、その一部を事業用資産として所得していた(イ)宅地及び(ロ)建物を(ハ)宅地と(ホ)建物に買換え、その一部を事業用として賃貸しているのであるから、租税特別措置法三八条の六の一項、同法施行令二五条の六の一項により次のとおり譲渡はなかつたものとみなされ、この部分は所得税の対象とならない。

譲渡収入金額 二、五九五万三、四〇〇円

((イ)宅地売却代金のうち賃貸部分の割合五五・二二%に相当する金額)

取得価額 三、四三三万八、六八八円

((ハ)宅地及び(ホ)建物の取得価額のうち賃貸部分の割合七六・五一%に相当する金額)

従つて控訴人の昭和三九年分の総所得金額は

譲渡所得 四四五万四、九二〇円(前記(二)のとおり)

給料所得 五三万八、二五〇円

不動産(家賃)所得 四五万九、〇〇〇円

の合計 五四五万二、一七〇円であり、それに対する所得税は基礎控除一一万七、五〇〇円を差引いたものに税率四五%を乗じ、それから税率表による五五万二、〇〇〇円と、源泉納付金五万〇、七〇〇円を引くと一七九万七、九〇〇円(一〇〇円未満切捨)となる。

又これに対する過少申告加算税は右の金額から訴訟人のなした申告納税額九万一、〇五〇円を差引いた一七〇万六、八五〇円に(一、〇〇〇円未満切捨)五%を乗じた金額八万五、三〇〇円である。

(控訴人の主張に対する被控訴人の答弁と反論)

一、控訴人の主張のうち本件建物に二個の出入口があり現在別紙図面〈1〉〈2〉〈4〉の三個の階段があること、北の出入口はそこにある階段から二階に上り、上つたところで左側通路を廻つて更に階段を上つたところが三階であることは認めるがその余の事実は否認する、昭和四一年一二月以前は〈1〉〈2〉の二個の階段しかなかつたものである。

二、控訴人は昭和四二年八月二四日本訴提起以来種々の主張を反復し、同四五年三月一一日原審での準備手続を終つて要約調書を確認し、同四六年一二月一〇日弁論終結迄種々立証を尽してきたが、これらの経過を通じ終始、本件建物である別紙図面〈1〉の階段を居住用、事業用に供していたことを争わず、これを自白した上、これを前提として〈2〉の階段と〈3〉の通路については、三階に居住するのは控訴人のみであるから、一、二階の事業関係者らが二階まで来ても三階へ上る必要なく、事業の用に供していないと主張し、具体的な使用理由、使用面積等を掲示して被控訴人の主張を争つていたのである。従つて控訴人の当番での〈1〉の階段は居住用のみ供していたという主張は自白の撤回であり〈4〉の階段については控訴人の昭和四四年二月五日付準備書面添付の図面にも明示されているところで錯誤を主張するに由なく自白の撤回は許されない。

三、仮に右の自白の撤回が許されるとしても、控訴人は本件建物には〈1〉〈2〉〈4〉の階段が現在するとの前提に立ち、〈4〉の階段があるから〈1〉〈2〉の階段は居住専用であると主張するが、控訴人が本件建物を取得(新築)した昭和三九年一二月頃から同四一年一二月頃までは〈4〉の階段は設置されておらず〈1〉〈2〉の階段のみがあつたのである。〈4〉の階段は株式会社クレハが麻雀屋を廃業後に新設したものであるから、この点からも控訴人の主張は失当である。

四、のみならず、租税特別措置法三五条に規定する居住制限期間である建物の取得後一年を経過した時点における本件建物の利用状況からしても、控訴人は当時〈4〉の階段が存在し、これを事業用に供していた旨を主張することはできない。

即ち本件建物の二階は、昭和三九年一二月頃本件建物の取得した時より約二年にわたり、賃借人のクレハが麻雀屋として使用していたものであるが、客と従業員が風俗営業たる麻雀屋の二階へ出入りするには昭和三四年三月二八日愛知県条例第二号の風俗営業等取締法施行条例六条一号チの規定により、直接外部に通ずる出入口たる〈1〉の階段と〈3〉の通路を利用してのみ営業しうるのであるから控訴人の主張は措信し得ない。

(証拠)

被控訴人は乙一〇ないし一六号証を提出し、控訴人は証人尾立鎮茂の証言、検証の結果を援用し乙一〇ないし一六号証の成立は認めるが乙一二、一四、一五号証の内容を争うと述べた。

理由

一、当審の判断によるも被控訴人の主張は理由があり、控訴人の主張は理由がないものと認めるので原判決の理由全部をここに引用し次の説明を付加する。従つてこの認定に反する原審証人尾立鎮茂の証言の一部とそれにより成立の認められる甲四号証、成立に争のない乙八号証にある尾立鎮茂の回答の一部、原審証人浅井明の証言の一部、当審証人尾立鎮茂の証言の一部は措信しない。

二、控訴人は原判決添付計算表(1)のEにある一階々段部分の面積は、従前被控訴人の主張する四・三二平方米であることを認めていたが、当審に至りこれは誤りであり実測は三・七一平方米であると主張し、控訴人が原審で提出した昭和四六年一二月一〇日付の準備書面添付の図面を援用しているが、控訴人援用の図面によるも一階々段の内側計算面積は四・三二平方米であることが認められるので控訴人の主張は誤りであること、その誤りを前提とする控訴人の主張は採用できない。

三、次に控訴人は本件建物には二個の出入口、三個の階段(別紙図面〈1〉〈2〉〈4〉)一個の通路(同図面〈3〉)があり株式会社クレハに賃貸している一、二階のためには階段〈4〉のみが使われ、階段〈1〉〈2〉と通路〈3〉は、三階を居住用としている控訴人の専用であるからそれにより租税特別措置法が適用せらるべきであると主張しているので案ずるに、成立に争のない乙一一、一二、一四、一六号証、当審証人尾立鎮茂の証言と当事者間に争のない事実によれば控訴人は昭和三九年九月二一日原判決添付(イ)の宅地を売り同目録(ハ)(ニ)の宅地、建物を買いすぐ(ニ)の建物を収去しそれから(ハ)宅地上に現在の建物(ホ)を新築したがその三階は控訴人の居住用に供し、一、二階を株式会社クレハに賃貸したこと、クレハは当初一、二階を別々の業種即ち一階はバーに、二階は麻雀屋としたこと、このため当初は一階南の出入口突当りの階段(別紙図面〈4〉)は作られておらず、一階北の階段(別紙図面〈1〉)はクレハと三階を居住用に供している控訴人が共に使つていたこと、クレハの麻雀屋は昭和四〇年六月頃開業し約一年で閉鎖し一、二階ともバーとしたため前記〈4〉の階段は本件建物の新築完成後一年余後である昭和四一年暮頃作られたもので、それが今日に至つていることの各事実を認めることができる。

右の認定事実によるとクレハは南出入口から入り〈4〉の階段を使つて二階に上り、控訴人が階段〈1〉〈2〉と通路〈3〉を専用するようになつたのは少くとも昭和四一年暮〈4〉の階段が出来た後のことであるから昭和三九年分の所得税に関する本件訴訟に於て控訴人のこの点に関する主張はもとより採用できない。

よつて控訴人の本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 広瀬友信 裁判官 菊地博)

別紙

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例